小堀鐸二研究所

2026年小堀研レポート

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動力学的断層破壊シミュレーションによる短周期レベルのスケーリング

図1 動力学的断層破壊シミュレーションでは、断層面上の破壊について物理的な方程式に基づいて計算が行われるため、破壊挙動の詳細から最終的なすべり分布まで一貫して物理法則に従った震源モデルが得られます。また、現実では直接観測できない断層面上の破壊過程の詳細や観測例が少ない断層近傍の地震動も得られ、それらを検討することで新たな知見が得られる可能性があります。

当社では、これまで、現実に近い条件として断層面上の応力に不均質性を与えて多数ケースの計算を実施し、マグニチュードと破壊領域の関係や断層近傍の地震動について検討を行ってきました。今回、新たに、地震モーメントと短周期レベル(≒震源における短周期地震動の励起の強さ)の関係(スケーリング則)を評価したところ、シミュレーション結果は過去の地震データの分析から構築された既往式に概ね整合していることが確認されました。今後、さらに検討を深め、動力学的断層モデルシミュレーションの強震動予測への活用に繋げていく予定です。


陸域直下で発生するプレート境界地震の強震動生成域

図2 相模トラフや南海トラフでは、陸域直下におけるプレート境界の深さが日本海溝・千島海溝と比べて浅く震源から地表の距離が短いため、その震源特性の把握は強震動予測にとって重要です。しかし、それらの地域では、波形記録が得られている大地震がほとんどありません。そこで、当社は、上記地域と同様に陸域直下のプレート境界深さが浅く、かつ、近年も大地震の記録が得られているメキシコ地域に注目し、2012年と2018年に発生したM7級のプレート境界地震を対象に、経験的グリーン関数法を用いて強震動生成域の推定を行いました。

解析の結果、両地震ともに深さ20km程度に強震動生成域が推定され、その位置は既往研究によるすべり分布ですべり量が大きい領域と重なっていました。また、短周期レベル(≒震源における短周期地震動の励起の強さ)は国内地震の既往のスケーリング則に概ね従っていることがわかりました。今後は、類似のプレート境界地震の震源特性の知見を蓄積し、強震動予測の高精度化に繋げていく予定です。


巨大地震にかかわる都市部を対象とした連鎖複合災害リスク評価

図3 人命の保護、発災時の被害最小化、経済社会の維持、迅速な復旧・復興という国土強靭化の基本目標達成を目指すことを目的とした「南海トラフ地震等巨大地震災害の被害最小化及び迅速な復旧・復興に資する地震防災研究プロジェクト」が文部科学省により実施されています。本事業の一環として、当社は昨年度より、(国研)防災科学技術研究所から調査研究業務を受託し実施しています。

この研究では、都市部において災害がどのように時間的・空間的に展開し得るかを可視化・評価するシミュレーション手法を構築し、「連鎖複合災害」※の構造を解明し、事前対策の設計に資することを目指します。当社は、今後も引き続き本プロジェクトに関わって、巨大地震に対する防災対策の高度化に向けて貢献していきます。


地震動予測式による予測値と観測記録の残差分布形状の分析

図4 ある地点である地震動強さが発生する確率、またはある期間にある確率で発生しうる最大地震動を予測する方法は、地震ハザード評価と呼ばれています。地震ハザード評価には地震動予測式による予測値と予測値に対するばらつきが用いられ、ばらつきの確率分布には通常、正規分布が仮定されます。しかし、評価の精度向上のためには実現象に基づく確率分布の使用が望ましく、予測値と観測記録の残差分析が重要となります。

当社は、確率分布に関する研究業務を(国研)防災科学技術研究所から受託しました。本研究では、地震動予測式による予測値と観測記録の残差を求め、その分布形状を正規分布と比較しました。その結果、分布形状は概ね正規分布に近いですが、分布の両端にずれが生じることが確認されました(図の赤線からのずれ)。このずれは、非常にまれにしか起きない大きな揺れに対する地震ハザード評価に影響を及ぼします。今後、低頻度の事象に対しても高精度な地震ハザード評価を目指して研究を継続していきます。


3次元有限要素法における非線形地盤構成則の開発と適用

図5 地盤の非線形挙動や液状化現象を数値シミュレーションできる技術の獲得は、地震時の地盤挙動を高精度に予測し、構造物の安全性を合理的に評価する上で極めて重要です。当社は、3次元有限要素法(FEM)における地盤要素として、非線形性および液状化現象を統一的に取り扱うことが可能な地盤構成則を開発しています。

この地盤構成則を用いることで、液状化の発生・進展過程や、側方流動等の地盤変形が基礎構造に及ぼす影響、さらに各種工法による液状化抑制・地盤変形抑制効果を精緻に評価できるようになります。今後もさらなる解析手法の高度化を進めるとともに、開発した地盤要素を用いた数値解析によって、設計合理化に資する知見を収集していきます。

■適用事例1 杭周地盤改良工法による杭応力低減効果
耐震性の低い杭を補強する工法の一つに、杭周囲地盤の固化による杭応力低減を目的とした杭周地盤改良工法があります。この工法による杭応力低減効果を検討するため、3次元FEMを用いた逐次非線形地震応答解析を実施しました。その結果、本検討条件では、杭周地盤改良により杭頭部および杭中間部の曲げモーメントが低減され、杭の損傷リスクを低減することが示されました。

■適用事例2 地盤に残存する杭が新設杭の応力に与える影響
地中に残存する杭(既存杭)の存在は、地震時における周辺地盤の応力状態を変化させ、新設する杭の応力に影響を与える可能性があります。本検討では、既存杭が新設杭の杭応力に及ぼす影響について既存杭の杭径をパラメータとして、3次元FEMを用いた逐次非線形解析を実施しました。その結果、既存杭が細いケースでは影響はほぼ見られない一方、既存杭が太いケースでは、地中部の杭応力が低減することがわかりました。


建物内の地震観測データを利用したデータ同化による基礎の損傷検知技術の開発

図6 近年、地盤や基礎の被害に注目が集まっていますが、杭基礎の被害の有無を確認するためには、現地の地盤を掘削するなどの調査が必要な場合が多く、多大な費用と時間を要します。当社が展開する被災度判定支援システム「q-NAVIGATOR®」をはじめとして、地震の揺れを測るセンサを設置した建物が増加していますが、センサの多くは建物内に設置され、地盤や杭に設置される事例はごく限られています。そのため、建物内の観測記録から地盤・基礎の損傷に関する情報を取得する技術が望まれています。

当社は、海外の研究機関や技術者と連携し、観測記録を基に、仮定した解析モデルを実挙動に近づける手法であるデータ同化を用いた研究開発を進めています。2025年度は、建物内の加速度記録から杭基礎の損傷を検知する研究を進めました。これにより、基礎の回転を表す回転地盤ばねの変化から杭の損傷を検知できる可能性を確認しました。当社は、今後も基礎の損傷検知技術の開発に取り組んでいきます。


液状化地盤における安全性向上に向けた最新の地盤構成則を用いた地盤沈下の評価

図7 地震により地盤の液状化が発生すると、地盤内で地下水が移動し、地下水が抜けた場所での地盤沈下や、砂を巻き込んだ地下水が地表面から噴き出す噴砂現象などが発生します。これらにより建物に沈下が生じ、安全性に影響を与える可能性があります。地震時の液状化地盤の挙動は、液状化対策に必要な情報であり、その適切な評価は安全な建物の実現に欠かせません。

そこで当社は、砂と地下水の動きを一体として解析できる3次元有限体積法プログラムFLAC3Dと、地下水中の砂の地震時挙動の再現性に特化した地盤弾塑性構成則SANISAND-MSf v2を用いた液状化現象の評価に取り組んでいます。2025年度は、地震中の液状化挙動および地震後の地下水の移動に伴う地盤沈下に着目した実験の再現解析を行い、実験を概ね再現できることを確認しました。今後も、安全な建物の実現に向け、研究を継続していきます。


陸上および洋上の風力発電設備の地震荷重評価と審査機関による認証取得支援

図8 政府のGX(グリーントランスフォーメーション)政策は、化石燃料に依存しないエネルギーの安定供給により、脱炭素社会を実現することを目指して、再生可能エネルギーの活用を推進しています。その一環として、現在、多数の風力発電事業が計画されています。当社は、高度な解析技術を活用して、それらの事業の設計業務に取り組み、審査機関による認証取得を支援しています。

陸上風力では、山地での基盤傾斜の影響や、海岸線近くの液状化地盤での側方流動の影響を考慮した地震荷重評価を行うために、有限要素法(FEM)解析を実施し、難易度の高い立地条件に対応しています。洋上風力では、3次元FEM解析により、大口径杭(モノパイル)に支持された風車の地震時挙動の詳細な検討を行っています。当社は、今後も継続して風力発電事業の拡大に貢献していきます。


超高層建築物の耐震安全性検証に用いるCFT柱の解析技術の高度化

図9 近年、発生が懸念される南海トラフ地震などにより、超高層建築物は振幅の大きいゆっくりとした揺れを長時間受ける可能性があります。このとき建物を構成する部材は、多数回の繰返し変形を経験するため、破断や耐力劣化の生じる恐れがあります。超高層建築物に多く使われるCFT(コンクリート充填鋼管)柱に対して、設計に適用できる変形性能評価手法がない現況を踏まえ、当社ではその技術開発に取り組んでいます。

2025年度には疲労実験をもとにしたコンクリート材料のモデルを、CFT柱部材実験の再現解析に適用して、より精度よく柱部材の耐力劣化を模擬するように改良しました。さらに建物立体フレームモデルに組み込むことで、超高層建築物の耐震性の精緻な評価が可能になりました。当社はこれらの技術を通じて超高層建築物の耐震安全性確保に貢献していきます。


q-NAVIGATOR®の全国展開と蓄積データを活用した近隣非観測建物の被災度推定の適用

図10 被災度判定支援システム「q-NAVIGATOR®」(以下、q-NAVI)は、2015年の事業化以降、2026年3月末時点で全国616棟に導入されています。導入建物の多くは大都市圏の事務所ビルですが、近年では全国各地の生産施設への導入が進んでいます。しかし、広大な敷地に多くの建物がある生産施設では、全ての建物にq-NAVIを導入することが困難な場合も少なくありません。

2025年度には、q-NAVI設置建物の観測記録から、その周辺にある非観測建物の被災度を簡易的に推定する手法を開発し、生産施設に実適用しました。これにより、一部の建物にq-NAVIを設置した場合でも、q-NAVI設置建物と同様に同じ敷地内における非観測建物の簡易被害推定結果を表示することで、複数建物の被災度の一元的な把握が可能となりました。推定手法の開発では、これまでに蓄積した膨大な観測記録を統計的に分析し、推定に伴う誤差の把握と判定精度の向上に努めました。当社では今後も、q-NAVIの更なる普及と安定稼働とともに、多様なニーズに応える技術開発を進めていきます。


東京都内の公立学校における無線地震計システムの実証試験

図11 被災度判定支援システム「q-NAVIGATOR®」(以下、q-NAVI)は、堅牢性を重視して、機器を有線LANケーブルで接続しています。しかし、有線のシステムは配線に係る工期や費用が必要で、例えば一時的な地震観測には向いていません。当社では、構造ヘルスモニタリングの適用拡大を図るため、2017年から簡易に設置できる無線地震計システムの検討を始め、システム開発、E-ディフェンス実験での検証、当社関連施設における適用試験を進めてきました。

2024年12月からは、東京都内の公立小・中学校に協力いただき、校舎2棟に計9台の無線地震計を設置したシステムの実証試験を実施しています。この試験では2026年4月までの1年4ヵ月の間に8回の地震を観測し、従来のq-NAVIと同様に揺れを評価できることを確認しました。今後も設置・観測・評価のノウハウを蓄積しつづけ、構造ヘルスモニタリングの適用拡大と顧客満足を目指します。