普及型建物被災モニター q-NAVIGATOR
  2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、首都圏で主要な交通機関がマヒし、約515万人(内閣府推計)の帰宅困難者が発生しました。帰宅困難者が路上に滞留すると、火災や落下物等による2次被害が懸念されることから、東京都は「帰宅困難者対策条例」を2013年4月に施行しました。この条例では、大規模災害の発生時において、管理する施設の安全性並びに周辺の状況を確認の上、安全性が確認された場合には、従業者に対し当該施設内での待機を指示し、一斉帰宅を抑制するよう、事業者の努力義務を課しています。
  一方、大都市が大地震に襲われた場合は、多数のビルが同時被災するため、構造物の安全性の確認に必要な構造技術者が不足することが懸念されています。特に、鉄骨造建物は、構造駆体が内装に覆われているため、迅速に安全確認を行うことは事実上困難です。
  このような問題を解決するためには、建物にセンサーを設置して、地震時の建物の挙動を計測し、建物の安全性を推定することが有効な手段と考えられています。以上のような潜在的なニーズを踏まえて、小堀鐸二研究所では、2006年に震災速報システムを開発しました。このシステムは、複数の超高層ビルで採用され稼働中です。また、このシステムを原型とした商用システムも普及しています。
  しかし、開発後数年を経てその後の電子機器の進歩を取り入れる必要があること、また一般的な中高層向けのシステムが必要とされていることから、普及型の建物被災モニタシステムを新たに開発しました。
■システムの特徴
  本システムは、@超高層ビル向けと同等の性能を実現し、A高い信頼性を確保しつつ、B普及価格帯で提供することを目指しています。
@高性能の実現
  本システムは、建物の基礎のみに地震計を設置して、震度や応答解析を介して間接的に損傷度を推測する簡易型のシステムではなく、超高層向けのシステムと同等もしくはそれ以上の台数の地震計を設置し、建物の変形を直接計測することによって構造的な被害を高精度に評価します(図1)。
エレベータ管制システム
図1 システム概要
A信頼性の確保
  建物被災モニターは、稀に起こる大地震において確実に作動することが求められます。そのためには、日常的な点検が欠かせません。本システムでは、オンラインメンテナンスを導入(図1)することにより、メンテナンスコストを抑制しつつ、現地検査では実現困難な、キメの細かいメンテナンスを行います。1日1回、オンラインで機器の動作確認を行い不調が発見された場合は、直ちにリモートで制御を行い修復不可能な場合センターから連絡し対処します。また、一定規模以上の地震が発生した場合は、被災度判定の妥当性の検証を行い、単純な動作確認では分からない、機器の動作精度を確認します。これらのメンテナンスにより、高い信頼性が確保されます。
B普及価格帯での提供
  システムは、LANに直接接続できる地震計(図2)と、PC1台と最小限の周辺機器から構成されており、これ以上の簡略化が考えられない、ミニマム構成となっています。PCにも一切の可動部がないタイプを採用し、信頼性を高めつつコスト削減を行っています。また、最新の通信技術を取り入れることにより、オンラインメンテナンスにおいて負担となる通信費を大幅に削減しています。
エレベータ管制システム
図2 地震計(KTN-3G-1)
■標準構成
  標準構成は、建物階数8階程度で地震計4台ですが、建物規模等や求める精度に応じて、地震計の台数の変更に対応します。被災度の判定クライテリアは、新耐震以降の建物は構造計算書、旧耐震の建物は耐震診断に基づいて、専門の構造技術者が設定します。
■超高層建物への適用
  高さ60mを超える超高層建物については、振動解析によって評価される振動モードを用いて、地震計設置階の間の階の応答を補間して評価します。この手法によって地震計の数を階数に応じて増やす必要がなくなりました。
■拡張性
  本システムは、大地震時の通信途絶を考慮して、建物内でローカルに動作しますが、メンテナンスとデータ保全のため、平常時にサーバーにデータを保管します。このデータを、ネット経由で参照することにより、統合的なビル管理システムに組み込むことも可能です。